名フィル寺尾洋子様 Part4「人と人、音と音」

9

3.2016

名フィル


Part4「人と人、音と音」

ヒノヨコ:お母様の夢をしっかりと叶えられ最高の親孝行をされましたね。


ところでヴァイオリンからヴィオラにはいつ転向されたのですか?


寺尾さん:大学の時にヴィオラのレッスンも受け、室内楽でヴィオラを担当して興味を持ち、

ずっとヴィオラを弾きたいと思ったので、

卒業と同時にに転向しました。


ヒノヨコ:ヴィオラはヴァイオリンよりもひとまわり大きな弦楽器ですよね

私はヴィオラの音色を聴くと、なんだかとても心が落ち着くんです。


寺尾さん:そうですか、ありがとうございます。


ヒノヨコ:そして私の勝手なイメージですが、

ヴィオラはヴァイオリンを支えるとか包み込む感じがするのですが、

転向されたヴィオラは

どのようなイメージでしたか?


寺尾さん:私はすごくあがり症なんですが、

先ほどヒノヨコさんもおっしゃったように、

ヴァイオリンよりヴィオラの音色の方が

弾いていて落ち着く気がして、

自分には向いているなと感じました。
それからこれはヴァイオリンにもヴィオラにも

共通することですが、大学の時の恩師から、

「楽器を弾くために動かす腕や手は、

足の下にある大地から力をもらうイメージで」と

教えていただきましたが、

そのイメージはヴィオラの方が体現しやすいように思えました。


ヒノヨコ:大地から力を?・・・。

寺尾さん:大地のエネルギーを楽器に、

そして音に伝えるということです。


ヒノヨコ:大地のエネルギーを楽器、音に伝える?


寺尾さん:はい。


ヒノヨコ:演奏会で音楽を聴くということは演奏家の皆さんのエネルギーだけでなく

地球のエネルギーをも与えられているということなのですね。

だから、演奏会の後は元気になったりスッキリしたり、

パワーが出てきたりするのですね。


寺尾さん:人と地球のエネルギーを一気に浴びて、元気になっていただければ、それは嬉しいことですね。

ヒノヨコ:そして、お会いするたびに思うのですが人に対してとても細やかな気配りをされるので、

いつも感動しておりますが。

寺尾さん:ありがとうございます。そうですね。

オーケストラでは音や音楽への心配りはもちろんのこと、

一緒に音を作っている仲間、

つまり人への配慮も大切にしなければならないと思います。


ヒノヨコ:音も人もどちらも大切にするということですね。

寺尾さん:はい。私たちは一度にあれだけの人数で音を出しますが

たとえ担当する楽器が同じでも、持っている楽器も奏法も個性も一人ひとり違うので、自分と全く同じ弾き方をする人はいません。
一人一人が異なった音楽性や音楽観、価値観、そして自信を持っていますから

お互いの音楽を尊重する心配りは必要ですね。

ヒノヨコ:オーケストラは主張し過ぎず個性も殺さず、協調して演奏する集団なんですね。

寺尾さん:そうですね。お互い人間ですからいつも良いバランスを保つのは難しいですけれどね。ヒノヨコ:そういえば、ヴァイオリンやヴィオラなどの弦楽器は、一本の弦を弾くと近くにある弦が響き始めることがありますよね。
共鳴するというのでしょうか?

寺尾さん:はい、よくご存知ですね。楽器を近くで聞いた経験がないと実感できないかもしれませんが、共鳴しますね。

ヒノヨコ:本当に不思議だな〜って思うのですが、見えないはずの音が空気を伝わってもう一つの音を響かせるということですか?


寺尾さん:えーと、少し難しい話ですが、音には倍音というものがあって、一つに聞こえても実はよく聞こえていないたくさんの他の音が一緒に鳴っているんです。だから倍音グループに入っている音同士が近くでなると響きあうんです。

ヒノヨコ:なるほど。同じ楽器だけでなく、オーケストラの中ではいろいろな楽器の間でも共鳴しあっているからあんなに響くのですね。

寺尾さん:そのとおりです。

オーケストラ


ヒノヨコ:なんだか想像を絶するような音の響き合い、エネルギーの流れを感じてきました。


寺尾さん:いいところに気付かれましたね。そのエネルギーの流れと音の響きこそが音楽の正体なんですよ。私たちは自分たちが作った音のかたまりをどんどん先へ運んでいきます。指揮者と私たちはみんなでエネルギーの波動を感じながら方向や強さを考えて、大きな玉ころがしをするみたいに演奏していくんです。

ヒノヨコ:音楽の正体!大きな玉ころがし!そしてエネルギーの波動!私たちはオーケストラのみなさんを観客席から観て聴いて

そして感動しますが、
オーケストラで演奏していらっしゃるみなさんは、

まさに音やエネルギーのまっ只中。

なんだか命がけのような気がしてきました。


寺尾さん:命がけ、

そうですね。音楽の大きなうねりを見失わないように、耳や神経のアンテナを常に頭の上にあげて情報をキャッチしなければならないので、演奏会は毎回精神的にもかなりのエネルギーを使います。


ヒノヨコ:一人一人が音楽を創り、そこにエネルギーを伝え、注ぎ込むということをされているのですね。
オーケストラのみなさんの演奏を聴く時の心構えがかなり変わってきました。
しかしとても良い気持ちになって別世界にいってしまうことがあるのですが(^_^;)


寺尾さん:良い気持ちになっていただくことは、私たちにとっては嬉しいことですから大丈夫ですよ。それにここだけの話、生演奏を聴きながらのうたた寝は最高の贅沢気分になれます。堂々とどうぞ。


ヒノヨコ:素晴らしい演奏を聴いていると身体が勝手に反応してしまうんですよね(^_^;)


寺尾さん:私たちも身体が自然に反応してもらえるようにがんばりますね。

ヒノヨコ:ところで、プロの音楽家として子育て中のご両親に向けて
音楽に関するアドバイスをいただけたらと思うのですが。


寺尾さん:はい。まず音楽好きなお子さんを育ててもらいたいなと思います。音楽は習い事だけではありません。おうちで歌を歌ったり、先入観のないうちにいろいろなジャンルの音楽を聴かせてあげるのもいいと思います。

もしもピアノなどの習い事をするなら、毎日のように家での練習が必要なので、子供が小さいうちは一緒に付き合ってあげてほしいし、いつか大人になっても楽しみで弾けるというレベルに到達するまでは止めずに頑張ってほしいと思います。

いずれにしても家庭では、良きアマチュアを育てていただけたら最高ですね


ヒノヨコ:良きアマチュアなのですね?プロではなく?


寺尾さん:良きアマチュアですね。一生音楽を楽しめる人になってほしいですね。

プロになるにはやはり
本人や親が希望しても叶わない場合もありますし
プロを目指す人もいていいと思いますが
一生音楽を楽しめる人になれるとしたら、
それは生きる上でとても素晴らしいことだと思います。ですから
大人もぜひ良きアマチュアとなって、次の良きアマチュアの芽を育ててあげてください。


ヒノヨコ:なるほど、音楽を一生楽しめたら、それは本当に素晴らしいことですね。


名フィル
ヒノヨコ:一生音楽を楽しめる人を増やしたい。アマチュアだからこそ音を楽しむことができるのかもしないなと
 プロの言葉がずしりときました。

さて次は、寺尾洋子さんとヒノヨコの秘密の関係について
そして最終回は
いよいよ寺尾さんご自身の子育てについてお伺いします。
お楽しみに(^_-)

名フィル50周年


「先輩ママに突撃インタビュー」目次

Part1:プロフィールの謎

Part2:習わぬヴァイオリンを弾く

Part3:親が夢をみるって〜想いは超えてゆく

Part4:人と人・音と音

Part5:保育園6年学童6年お父さん

Part6:番外編




おふじ

名古屋フィルハーモニー交響楽団

ヴィオラ奏者 寺尾洋子さん

<PROFILE>

お母様の手ほどきで4歳よりヴァイオリンを始める

愛知県立明和高等学校音楽科から、

京都市立芸術音楽大学音楽学部器楽科に進学。

卒業と同時に名古屋フィルハーモニー交響楽団に入団。

ヴァイオリンを藤本明子、堀部純子、ヘリー・ビンダー、

ヴィオラを平田泰彦、西岡正臣、ジョン・グラハム、

室内楽を岩淵龍太郎、岸邊百百雄、黒沼敏夫の各氏に師事。