名古屋フィルハーモニー ヴィオラ奏者 寺尾洋子様 Part5「保育園6年学童6年お父さん」
15
7.2016
名古屋フィルハーモニー ヴィオラ奏者 寺尾洋子様
Part 6「保育園6年学童6年お父さん」
ヒノヨコ:さて、いよいよ寺尾さんご自身の子育てについてのお話です。
ヒノヨコ:寺尾さんはオーケストラのお仕事をされながら
息子さんを育てられたわけですが、
子育てとお仕事をどのように両立していらっしゃったんですか?
寺尾さん:はい、我が家の子育ては
「保育園6年学童6年お父さん」です。
ヒノヨコ:いきなりですね〜(^_^;)
「保育園6年学童6年お父さん」?
お子様は息子さんがお一人とお伺いしておりますが。
寺尾さん:はい。大学2年生で、今度二十歳の息子がおります。
今は京都で一人暮らしをしています。
ヒノヨコ:そうなのですね。先ほどおっしゃった
「保育園6年学童6年お父さん」とは
子育てで、保育園に6年間、学童保育に6年間、
そしてお父様が子育てされたというふうに
受け取ってよろしいのでしょうか?
寺尾さん:そのとおりです。
出産後育児休暇を約4ヶ月いただきまして、
息子が6ヶ月の時に仕事に復帰しました。
それからは6年間の保育園生活、
その後小学生の間は下校後の
学童保育で6年間お世話になり、
私が仕事でいない夜間や休日は
主人に面倒を見てもらいました。
ヒノヨコ:お仕事に復帰された時から、
すぐに保育園に入園できたのですか?
寺尾さん:いいえ。生後6ヶ月から新年度が始まるまでの2ヶ月は、
今でいう保活に失敗し無認可の保育所にお願いしました。
ヒノヨコ:当時の保育事情のためですね。
寺尾さん:当時は待機児童も今ほどではなかったと思うのですが、0歳児を受け入れてくれる保育園でも定員は少ないですから、
まったく新規の家庭では年度途中の入園は難しかったですね。
それでも運良く4月(8ヶ月)からは
認可の保育園に入ることができました。
ヒノヨコ:お父様お母様はお近くにお住まいではなかったのですか?
寺尾さん:二人とも実家は名古屋市内と近郊で、
親は当然頼ってくるだろうと
受け入れる覚悟をしていたようですが、
私たち夫婦は、こちらがフルタイムで働く以上
親にフルタイムで育児をさせるわけにはいかないと考えていました。
当時はお爺ちゃんたちも現役で働いていましたし、
それぞれの時間を大切にすることを考えて
孫育てはお願いしないでおきました。
ヒノヨコ:ご両親の暮らしのことをご配慮されるとはすばらしいですね。
寺尾さん:ただ、両親に毎日の育児をお願いしなかったと言っても、
私の仕事は勤務時間も日によって違うし、休日も不定期。
演奏会は夜が多いので帰りも遅いし、
演奏旅行など泊まりの仕事も年に数本は入ります。
それに子供は急に熱を出したり病気になったりもしますから、
困った時にはお願いせざるを得なかったし、甘えさせていただきました。
ヒノヨコ:まさに共働きの家庭の育児のお手本のようですね。
息子さんはたくさんの手で育てられたということですね。
子育てはたくさんの手で育てるのが本来の姿ですね。
赤ちゃんや幼い子どもが、愛情深く、
他の人との情緒的な結びつきを深めることはとても大切です。
そして、それは母親以外の大人でもよく
心理的な絆、愛着があれば
それが将来の対人関係のモデルとしてなっていくのですよね。
ヒノヨコ:日本人の母親にありがちな
子どもとのべったりした関係は
母親の対応が感情に左右されやすく、
子どもにとっては矛盾を感じる愛着の型であるともおもうのですが、
いかがですか?
寺尾さん:私たち夫婦の性格のせいか、
うちはべったりどころかさっぱりしすぎかもしれませんが、
息子とはいい距離を保てていると思います。
肉親だけでなく保育士さんや学童の指導員さんたちにも
愛情を注がれ育てられたのが良かったのかもしれませんね。
ヒノヨコ:「保育園6年・学童6年・お父さん」というキーワードにあるように、お父様が子育てに深く関わられたと感じるのですが、どのように関わってこられたのでしょうか?
寺尾さん:うちの主人は、お料理が得意なので、
離乳食のころからご飯を作って食べさせたり、
学童でも夏休みなどに食事作りを手伝ったり、
学校の参観や懇談会など学校関係の行事にも
たくさん参加してもらいました。
とにかく私の仕事復帰後は
授乳以外はなんでもこなしてくれましたよ。
ヒノヨコ:わー、イクメンですね。
寺尾さん:本人は父親としての当然の役割と考えているようでした。
ヒノヨコ:本当ですね。
実際日本で江戸時代頃までは
父親が子育てにかなりの割合で関わってきたと言われています。
寺尾さん:そうなのですね。
ヒノヨコ:今日はこちらに寺尾さんが子供の時に使っていらっしゃった
分数バイオリンを
持ってきていただいておりますが、
これは息子さんも使われたのですか?
寺尾さん:はい。おばあちゃんが・・・、亡くなった私の母ですが、
4歳になった息子に「あなたのバイオリンよ」
と言って持ってきたのがきっかけで習い始めました。
母親と同じような楽器で遊べると思って、
嬉しかったんでしょうね。
ヒノヨコ:きっとそうですよね。
寺尾さんご自身で教えられたのですか?
寺尾さん:いいえ、自分の経験からも
親子だとどうしてもお互いいい加減になりますし、
知人のバイオリニストにお願いしました。
一度始めた習い事はある程度続けないと意味がないので、
小学生の間は続ける約束をして、
結局12歳まで続けました。
ヒノヨコ:プロに育てようとは思われなかったのですか?
寺尾さん:幸か不幸か息子は才能も興味も
それほどではありませんでしたし、
私もその気はまったくありませんでしたから。
ヒノヨコ:そうだったのですか?素人考えだとなんだかもったいないような気がしてしまいますが。
寺尾さん:こればかりは本人の希望だけでも親の期待だけでも、
どうしようもないこともありますしね。
6年生でいったん習うのをやめたのですが、
実は息子とバイオリンとの関わりはその後も続きました。
中学3年の時にまた弾きたいと言い出して、
高校では2年間オーケストラ部に所属して弾いていました。
ヒノヨコ:それは素晴らしいです。さすがです!
寺尾さん:まんまと私の希望どおりの
「良きアマチュア」になってくれたわけです。
現在大学では別のご縁があったようで
合気道部に所属しているんですけれど、
オーケストラ部にも少し未練があるみたいです。
ヒノヨコ:えー、合気道とはまた、バイオリンとのギャップがありすぎですね・・・。
寺尾さん:バイオリンは弾こうと思えば
またいつでも始められますから。
合気道のお友達にバイオリンが弾けるというと、
かなり驚かれるようです。
楽器の経験が今ではもっぱら
「ネタ」として役に立っているみたいですよ。
ヒノヨコ:ネタですか・・・?素晴らしすぎるネタですね。
ヒノヨコ:ところで、保育園や学童、お父様が中心の子育てとはいえ、寺尾さんご自身は息子さんに対してどのようなことに気をつけて育てられましたか?
寺尾さん:小さいときは特に、
仕事がお休みの時とか早めに帰宅できた時には
できるだけ息子と接するようにしていました。
ヒノヨコ:短い時間を大切に息子さんと
向き合われたということですね。
スキンシップされたりとか?
寺尾さん:はい。そして一方で自立というか、
与えられた環境の中で自分の力で自分の居場所を
見つけられるようになってほしいと考えていました。
ヒノヨコ:自分の居場所ですね。
寺尾さん:一人っ子なので両親や祖父母、
叔父叔母など大人に囲まれて大事にはされますが、
一日のほとんどの時間を保育園や学校、
学童などで他人と過ごすことになるので、
子供たちの中で自分の居場所を
見つけられるようにならないと苦しいだろうなと。
いずれ社会に出てもやはりその場その場での
自分の居場所を見つけられるようになっておいてほしいと思いました。
ヒノヨコ:なるほど、社会にでた時にその場で自分の居場所を見つける事、それは場所的な事でもあり、人の間での居場所ということでもあるのですね。
役割というか、心地良い場所というか。それはとても大切なことですね。
寺尾さん:そうですね。
もしきょうだいがいれば、
家でもなにかしら遊んだり競ったりすると思うのですが、
一人だとどうしても子供同士コミュニケーションをとる時間が
少なくなりますので、多くの子供たちの中でもまれながら
駆け引きの方法を学んで欲しかったとも言えるのかもしれません。
ヒノヨコ:コミュニケーションの方法、
しかも子供たちの間での駆け引きですね。
寺尾さん:そうなんです。大人の中にいれば、
気を遣ってもらって居心地よく過ごせても
子供同士ではまた違いますからね。
ヒノヨコ:子供の世界はキビシイですからね。それで、息子さんは居場所をみつけられるようになられたのでしょうか?
寺尾さん:これは本人の性格によるところも大きいと思いますが、
おかげさまでどこに行っても自分の居場所を見つけるのが
上手な子になったようです。
保育園でも学校でも学童でも初めは居心地悪そうにしているそうなのですが、
そのうち彼なりの方法で頑張って
自分の居場所を作って溶け込んでいったようです。
たくましく育ってくれました。
ヒノヨコ:それは素晴らしいです!立派にご成長されましたね!
最後に、働くお母さんの先輩として、
今子育て真っ最中の働くお母様方へのメッセージを
お願いできたらと思うのですが。
寺尾さん:そうですね、
子育ての軸はもちろん親ですけれど、
”他の人の力を少しずつ借りる”ことで
変わることもあるのではないでしょうか。
”まわりの人に子育てを助けてもらう”ということに
罪悪感を感じないことが大切だと思います。
ヒノヨコ:母親が子育てを助けてもらうことに対して
罪悪感を感じる必要はないと!
それは嬉しいお言葉ですね〜( ´ ▽ ` )ノ
寺尾さん:大変な子育ての最中にはたくさん助けてもらって、
その感謝の気持ちをきちんと周りの人たちに伝え、
そして、今度は次の世代に返していけば良いと思うのです。
ヒノヨコ:わー、それは素晴らしいです!
本当にそうですね。
すべてのお母様方にそんな風に考えていただけたら
また周りの人、地域の人々みんなで助け合えたら
きっと子育て事情もより良い方向に変わっていきますね。
寺尾さん:子供たちをみんなの手で育てていけたら素晴らしいと思います。
ヒノヨコ:私が心から願っていることです。
今日は素敵なお話を本当にありがとうございました!
寺尾さん:こちらこそありがとうございました。
ヒノヨコ:これからの演奏活動、
ますますのご活躍を心よりお祈り申し上げます。
多くの人々に素敵な演奏をお届けください。
本当にありがとうございました!
寺尾さん:ありがとうございました!
名古屋フィルハーモニー交響楽団
ヴィオラ奏者 寺尾洋子さん
<PROFILE>
お母様の手ほどきで4歳よりヴァイオリンを始める
愛知県立明和高等学校音楽科から、
京都市立芸術音楽大学音楽学部器楽科に進学。
卒業と同時に名古屋フィルハーモニー交響楽団に入団。
ヴァイオリンを藤本明子、堀部純子、ヘリー・ビンダー、
ヴィオラを平田泰彦、西岡正臣、ジョン・グラハム、
室内楽を岩淵龍太郎、岸邊百百雄、黒沼敏夫の各氏に師事。
次回、番外編にて
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乞うご期待!